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マンガ 水木しげる
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「時々、下手くそな絵とカラの頭とをもって、マンガ志望者が現れる。
「しばらくお勤めでもしながらゆっくりやったらどうです」というと、奇妙な顔をする。彼らには説明しても、下手くそな絵とタリナイ頭がわからないらしい。
絵は努力しだいでうまくなるし、カラの頭も一生懸命つめればつまるから心配ないが、「はじめから描かせてみてくれないのは、おれの天才を認めていないのだ」という目つきには閉口してしまう。それに、ちょっと誰かに似た絵を描けるようになると「もう俺はカケル」と早合点してしまうから困るのだ。十年位かけてじっくりやろうという心構えなんか見たくても持ち合わせていない。二、三年のうちに名声とお金を手中に収めようという安易な気持ちだから、ボクは彼等をケイベツするのだ、
ショウといわれるプロレスでも激しい訓練の後に得た業だ。何事にも長いトレーニングが必要なのだ。マンガの場合は、スポーツと違って勝つ相手の形が判然としないので、トレーニングの方法も非常に面倒だ。三年、五年いや十年でも手と頭のトレーニングが肝要である。
頭を毎日なぐりつけていると、そこにコブができるように、毎日苦心していると奇妙な発想がわいてくるようになる。そしてしまいには、手塚治虫先生や横山光輝先生のように子供のよろこぶオモチャマンガが、面白いほどできるようになり、まるで玩具製造器のような頭になってしまう。そこではじめてお金がタンマリもうかるという仕組みである。人間は生き物なのだから、自分の頭を少しずつ金儲けの機械に変形させてゆくわけである。そして、描く作品は、「マンガは子供のオモチャ以外の何ものであってもいけない」と考えている父兄や、よろず評論家たちの目を無事通過する規格品でなければならない。
人間の真実の姿なんてものはマンガでは描いてはならぬものとされているらしいのだ。
しかし、そういう金にならないマンガが、一部の人々の苦しみの中で生まれ、育ちつつあることは、誠に心強く、またうれしい限りである。
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初出:「ガロ」 1965年10月号
「なまけものになりたい」水木しげる 河出文庫 2003
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