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縄文杉9

 投稿者:石川仁木  投稿日:2008年 6月26日(木)11時31分4秒
  下山は快調だった。

単純に下りの方が楽だからというだけではなかった。

いつになったらゴールに辿り着けるか分からなかった登りと違い、
一度通った道なのでおおよその検討がつく。
精神的に楽だった。

すると、また例の老夫婦とお会いした。

まだ縄文杉まで辿り着いていないようだった。
むしろまだまだかかるだろう。
ご主人は年齢の割には警戒な足取りだったが、奥様はゆっくりゆっくりだった。

カメラを持って二人で何やら話していた。

私「シャッター押しましょうか」

奥「フィルム換えるところなのよ。私のカメラ古いから。ありがとう」

確かにデジカメではなくフィルム式のカメラだ。

岩場の隅に二人で寄って、何だか楽しそうだった。

途中、例のごとくちょっと道を外れて河原に出たりしながら、順調に下山を続けた。
 

縄文杉8

 投稿者:石川仁木  投稿日:2008年 6月26日(木)10時50分42秒
  縄文杉を見たあと、休憩ポイントで昼食を取った。

疲れているのだろうか。
それとも縄文杉に圧倒されたのだろうか。

みな一様に無言で食べている。

何となくおかしな光景だった。

辺りを散歩すると、山小屋があった。

覗くと中には誰もいない。
真っ暗でじめじめしている感じだ。

「これはちょっと…僕には無理ですね。泊まれませんよ」

側にいた20歳代後半の男性に思わず声をかけた。

「そうですか。自分は平気ですよ」

そう言った彼は自転車で神戸から来たという。
今日も島内のキャンプ場から来たそうだ。
寝袋などを詰めているリュック姿は、確かに登山慣れしている風だった。

次の仕事が見つかるまでの間、自転車で旅をしていると言う。

屋久島を出たら北海道を目指すそうだ。

テントや寝袋で寝る毎日なら、なるほど山小屋など苦にならないだろう。

話すうちに霧が濃くなって来たので、お互いの無事を祈りつつ別れた。

私は下山し始めた。
 

縄文杉7

 投稿者:石川仁木  投稿日:2008年 6月26日(木)10時08分27秒
  高台が見えて来た。

今度こそ本当に縄文杉らしい。

階段を登りきって顔をあげると、
柵の向こうに一本のゴツゴツした木が立っていた。

記念写真を撮る人に座って呆けたように木を見上げている人、様々だった。

それにしても何という静寂な佇まいであろう。

辺りには人が何人もいるのに、そのざわつきが自ずと収まってしまうような、そんな厳かさ。
喧騒を吸い込んでしまうようだった。

木自体の大きさや太さには特に驚くこともなかったが、
その独特の佇まいには圧倒された。

それは長い長い間、人々の尊崇を集めて来た故であろうか。

人目にさらされる事なき神秘の巨木もいい。
しかしこの雰囲気は人の思いが集まることによってしか出せぬであろうと思われた。

人々の目が、思いが、この木に神性を与えたのだ。

そんなことを考えながら、静かなる大木と静かに向き合っていた。
 

縄文杉6

 投稿者:石川仁木  投稿日:2008年 6月25日(水)20時54分43秒
  「先に行って下さい。
 私たちはゆっくり行きますから」

そう行って細く険しい登山道を譲ってくれたのは、
休憩ポイントでチョコレートを下さった老夫婦だった。

私は礼を言ってありがたく先に行かせていただいた。

登っては平行に迂回し、登っては平行に迂回しが繰り返される道。

先に行かせてもらったはいいが、
人の良さそうなあの老夫婦がこの険しいルートを登りきれるか心配になった。

「もうそろそろかな」

そう思った私は、ちょうど下山してきた二人組の男性に声をかけた。

「もう少しですか?」

「う〜ん、あと30分くらいかな」

あと5〜6分という返事を勝手に予想していた私は正直驚いた。

また少しして下山してくる人に同じ質問をすると妙に歯切れの悪い返事。

「もう少し… う〜ん、もう少し…かなあ」

どうやらもう少しではないようだった。

それでも登り続けると、ようやく高台のようなものが見えて来た。
 

縄文杉5

 投稿者:石川仁木  投稿日:2008年 6月25日(水)07時36分31秒
  単調な道が続いた後だけに、山道は楽しかった。

足を滑らせる危険はあるが、精神的にはいい刺激になる。

沢の水が心地よく、何度も顔を洗う。

ほどなく『ウィルソン株』という切り株に到着した。
最古の切り株だそうだ。

切り株の中に入ると、中には清水が湧いている。

小さな祠もあり、そこにお酒が供えられているせいで切り株の中は酒臭かった。

切り株の暗闇の中から見る、外の明るい世界。
幻想的だった。
上を見上げると、切り株の中にいるというよりも井戸の中に落ちてしまったような感覚に襲われた。

「縄文杉まであと少しだ」

そう思って道に戻りまた登り始めた。

が、道は更にキツくなった。

急勾配の階段で太ももはパンパンになった。
息も上がる。

どこまでもどこまでも上がる感じがするのだが、縄文杉らしきものは一向に見えてこない。
いや、前方は林立する木々ばかりだ。

「あの枝に縄文杉が遮られているのか」

何度もそう思いつつ、登り続けた。
 

縄文杉4

 投稿者:石川仁木  投稿日:2008年 6月25日(水)05時21分54秒
  単調なトロッコ道が延々と続く。

やはり飽きる人もいるのだろう。

私よりも前を歩いていたはずの人が、
ぽつりぽつりと道を外れて休憩している姿が目につくようになった。

無理もない。
さほど風景の変わらぬ道を延々と歩き続けているのだ。
肉体的な疲労もそうだが、精神的な疲労も相当なものだろう。

しばらく歩くと休憩ポイントがあったので、私は遅めの朝食を摂ることにした。

と、見知らぬ男性が無言で、そして微笑みながらチョコレートを私の手元に置いて行った。

見ると70歳は軽く越えているであろう老夫婦が、
自分たちの持ってきたチョコレートを周囲の人に差し入れしているのだった。

ありがたくいただいた。

朝食を食べ終わると、また進み始めた。

ここからはもう単調な道ではなかった。
山道が始まった。
 

縄文杉3

 投稿者:石川仁木  投稿日:2008年 6月25日(水)04時46分29秒
  私の歩みはのんびりしていた。

「何だかんだで夕方17:00の最終バスには間に合うだろう」

と考えていたからだ。

加えて空腹。

朝ごはんを食べずに出発したうえ、
途中にあった絶好の朝食ポイントでも食べていなかった。

もともとのんびりとした足取りが、空腹も手伝って余計に遅々としたものになった。

時おり、後から来た人に抜かれる。

そんな中、ふと声を掛けられた。

昨日、もののけ姫の森で出会った欧米人だった。

私「やっぱりいらっしゃったんですね」

欧「はい、楽しみです」

彼はずんずんと歩いて行った。
 

縄文杉2

 投稿者:石川仁木  投稿日:2008年 6月24日(火)20時47分31秒
  朝はなんだか物凄く晴れていた。
暑いくらいだった。

トロッコの通る線路をひたすら歩く。
枕木を踏みながらのギクシャクギクシャクとした足取りだが、
天気がいいせいかそれも苦にならない。

これで私は結構な写真好きである。
と言っても携帯電話に付いているカメラで撮影するだけなのだが、旅行に行くと頻繁に撮る。
自分が写っていることも記録に残したい、そんな時にはセルフタイマーを使用する。

自分の中で、

“一瞬をとどめる”

という作業に対する強い思い入れがあるのかも知れない。

それは単なる風景をという意味合いのほかに、
風景に託した自身の心象風景をという意味合いもあるだろう。

晴天のせいもあり、気分よくシャッターを切りながらのんびり歩いた。
 

縄文杉1

 投稿者:石川仁木  投稿日:2008年 6月23日(月)14時11分47秒
  縄文杉を目指す朝になった。

梅雨時にも関わらず、また屋久島にも関わらず、
朝から晴れている。

玄関に用意してあった朝昼二食分のお弁当を最後にリュックに詰め、宿を出た。

朝4:47発のバスに乗る。

車内には私一人。
途中のバス停から、ぽつりぽつりと乗客がいた。
それでも計4名ほど。

数人のグループで登る人は、
車で登山口まで行くか送迎付きのガイドツアーを頼むことが多いらしい。

6時過ぎに登山口に到着すると、そうしたグループですでに賑わっていた。

朝6:30。

縄文杉を目指して山を登り始めた。
 

もののけ姫の森10

 投稿者:石川仁木  投稿日:2008年 6月22日(日)10時10分35秒
  そんな話をだらだらとするうちに弥生杉という木の前に来た。

「縄文ほどじゃないから弥生ねぇ…」

と、妙にネーミングにこだわる私。
これは創作の癖でもあるのだろう。
いわゆる現代芸者に多い“無題”というタイトルが私は嫌い。
タイトルがより作品を引き立たせると考えるからだ。

少しすると先ほどの欧米人が来て、再びカメラのシャッターを頼まれた。

聞くと、日本にいるのは3日だけ。
明日は何としても縄文杉を見に行くと言う。

私「外人さん、気合い入ってんなぁ。
  早起きが面倒だなんて言ってらんないな〜」

太「縄文杉、行っちゃえば?(笑)」

帰りのバスの中で、私は縄文杉を見に行くことに決めた。

動機?

“達成感を味わいたい”

そしてもちろん、樹齢7000年とも言われる大木からエネルギーをいただくためである。

宿に着いてその旨を女将さんに話すと、

「お弁当の手配をしなくちゃ」

と張り切り始めた。

宿泊客が縄文杉を見に行くというのは一大イベントらしい。
そして島の名所を訪れようとする人がいるのが無性に嬉しいようだった。

私は昂りを抑えるように、夕暮れの街を散歩した。
 

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